あの頃の自分に届けたい、旅の処方箋

 

海外旅行に行きたい気持ちはあるのに、
体調のことや準備のことを考えると、
少し足が止まることがあります。

 

現地で熱が出たらどうしよう。

薬は何を持っていけばいいんだろう。

保険は入った方がいいのかな。

気持ちが落ちたとき、どうしたらいいんだろう。

 

このブログでは、旅する薬剤師 ボンディオラ が、
旅先で感じやすい不安を、
医療目線も交えながらやさしい言葉でまとめています。

 

まず読むなら

旅と心

旅で一番不安だったのは、「初めて」の瞬間だった

2026年3月9日

旅の最初は、判断することが多すぎた

世界一周に出る前、私が思い浮かべていた不安は、もっと大きくて分かりやすいものでした。

危ない目にあうかもしれない。
病気になるかもしれない。
お金や治安のことで困るかもしれない。

そういう、少し遠くにある不安です。

でも実際に旅が始まってみると、もっと手前にあるもののほうがきついと感じました。

初めての空港。
初めてのタクシー。
初めてのホテル。
初めての言葉。
初めての土地の空気。

旅の最初は、何をするにも一回目ばかりです。
そのたびに小さく判断が必要になって、気づかないうちにだんだん疲れていきます。

今ふり返ると、旅の序盤でいちばんきつかったのは、危険への緊張感よりも、この“初めて”の連続でした。


日本語が終わる気がした

出発して最初の移動は、サンフランシスコ経由でメキシコシティへ向かうフライトでした。

機内でANAの客室乗務員の方に声をかけられたとき、私は半分冗談で、でも半分は本気でこう言いました。

「不安ですよ。日本語はこれで最後かも……」

すると、笑いながら返ってきたのはこんな言葉でした。

「そんなことないわよ。日本人なんか、その辺にいるから。1日1回は見るかもよ?」

それだけの会話でした。でも、そのひと言で少し肩の力が抜けたのを覚えています。旅そのものが怖いというより、未知の場所に飛び込んでいく感じそのものが怖かったのだと思います。


初日に携帯をなくした

そして、その不安はちゃんと現実になりました。

夜、メキシコシティの空港に着いて、タクシーでホテルへ向かいました。右も左も分からないので、とりあえず最初の3日だけ宿を予約していたのです。

たぶん、かなり疲れていたんだと思います。移動中に、気付いたら居眠りしていました。

ホテルに着いてから、携帯がないことに気づきました。寝落ちした拍子に、座席に落としたのだと思います。一気に血の気が引きました。

今みたいに海外旅行用SIMなど、日本への連絡手段が多い時代ではなかった。当時の携帯は、いざというときの最後の頼みの綱でした。それを旅の初日で失った。そう思ったとき、かなり心が折れかけました。

レセプションの人に相談して、タクシー会社や空港にも電話しましたが、見つかりませんでした。

部屋に戻ってからはずっと、今後のトラブルのイメージばかり頭に浮かんでくる。もう帰ったほうがいいのかな、という考えまで頭をよぎりました。


それでも旅が続いた理由

そんな状態でも、次の日には外に出ました。

気分はかなり沈んでいたけれど、すぐに帰るとしても、せめて少しは観光してからにしよう。そう思っていたのだと思います。

最初に行ったのは、テオティワカン遺跡でした。その道中で、少しずつ空気が変わっていきました。中米の人たちの距離の近さや親切さ、周囲の観光客のフレンドリーさに触れて、「周りの人を頼ってもいいのかもしれない」と思えたからです。

もちろん、誰でも安心して頼れるわけではありません。場所によって気をつけることはありますし、やさしい出来事ばかりでもない。それでも少なくとも私は、「完全にひとりで全部抱えなくてもいいのかもしれない」と感じました。

思い返すと、ホテルの人もかなり親身に相談に乗ってくれていました。タクシーの特徴を聞いて、一緒に会社を特定しようとしてくれた。携帯は戻りませんでしたが、気持ちは少しずつ回復していきました。

このあたりから、旅の“慣れ”が少しずつ始まった気がします。


初めてが怖いのは自然なことだった

今なら、旅の最初がきつく感じた理由も少し分かります。

根性が足りなかったわけでも、旅に向いていなかったわけでもなく、ただ単純に、判断することが多すぎたんだと思います。

空港からホテルまでどう行くか。どこで両替するか。この道を歩いていいのか。何をどこで買えばいいのか。

初めての土地では、こういうことが全部その場の判断になる。慣れている人には流れでできることでも、最初はひとつずつ考えないといけない。その積み重ねだけでも、かなり疲れます。だから不安になるのは、自然なことだったんだと思います。


私がやったこと

大げさなことではありませんでした。

その日だけ考える

「これから1年旅する」と考えると、それだけで重たくなります。

でも、「今日はここへ行って、宿に戻る」だけなら、少し考えやすくなります。
旅の最初は、あまり先まで広げすぎないほうが楽でした。

失敗を前提にする

旅は、思ったより予定どおりに進みません。

何かをなくすこともある。移動がうまくいかないこともある。そういうズレが起きるたびに「向いていないのかも」と考えると辛くなるので、最初から少しくらいミスするものだと思うようにしていました。

トラブルの多くは、少し時間をかければ何とかなることも多いです。

相談できる相手を見つける

宿の人でも、お店の人でもいいので、「困ったときに話しかけられる相手」がいるだけで、最初の不安はかなり変わります。

コミュニケーションに自信がないなら、日本人宿を選択肢に入れるのもありだと思います。日本人グループと出会う確率もあがるし、旅の立ち上がりだけは、言葉が通じる環境が助けになることもあります。

それと、困ったときに大きいホテルのロビーへ入る、というのもひとつの方法です。宿泊客でなくても、道を聞いたり、少し相談したりしやすいことがあります。

「相談できる場所がある」と分かっているだけでも、最初の怖さはかなり変わります。


少しずつ慣れていく

旅の最初の不安は、きれいに消えるというより、少しずつ薄くなっていく感じでした。

昨日は分からなかったことが、今日は少し分かる。昨日は怖かったことが、今日は前よりは怖くない。その繰り返しです。

“初めて”は手ごわいですが、ずっと続くものではありません。一度使った市場、二度目の宿探し、三回目の長距離バス。
そんなふうに回数が増えるだけで、少しずつ肩の力が抜けていきます。

不安をなくすというより、不安があっても動ける範囲が少しずつ広がっていく
旅の最初は、そんな感じでした。


まとめ

旅でいちばん不安だったのは、出発前に想像していた大きな危険そのものより、“初めて”の連続でした。

でも、“初めて”は初回だけです。すぐに平気になるわけではなくても、少しずつ慣れていきます。

もし今、旅の最初で不安が大きいなら、無理に克服しようとしなくても大丈夫です。予定どおりにいかないことがあっても、それは向いていないからではなく、まだ初めてが多いだけ。そう思えると、少し楽になるかもしれません。


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ボンディオラ


調剤薬局の薬剤師として働きながら、一人旅を中心に80か国ほどを訪れてきました。

このブログでは、旅の楽しさだけでなく、体調、準備、不安、旅先での気持ちの揺れについても、旅する薬剤師の視点からやわらかく書いています。

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