あの頃の自分に届けたい、旅の処方箋

 

海外旅行に行きたい気持ちはあるのに、
体調のことや準備のことを考えると、
少し足が止まることがあります。

 

現地で熱が出たらどうしよう。

薬は何を持っていけばいいんだろう。

保険は入った方がいいのかな。

気持ちが落ちたとき、どうしたらいいんだろう。

 

このブログでは、旅する薬剤師 ボンディオラ が、
旅先で感じやすい不安を、
医療目線も交えながらやさしい言葉でまとめています。

 

まず読むなら

旅と心

旅の途中、急に泣きそうになった|自分でも気づかなかった「孤独」の話

2026年3月7日

安心したあと急にしんどくなった

世界一周の旅をしていると、不安も疲れも当たり前にあります。でも、それらは不思議と「旅の空気」の中ではやり過ごせてしまうことが多かったです。

本当にきつかったのは、旅の途中で一度だけ、完全に気を許せる場所に戻ったあとでした。

親族の結婚式に参加するため、私はフランスからグアムへ飛びました。旅を始めて半年くらい経った頃です。

久しぶりに、心の底から安心できる人たちに囲まれました。言葉を選ばなくていい。気を張らなくていい。ただ一緒にいて、何でもないことで普通に笑える。それだけで、無意識にこわばっていた肩の力がすっと抜けるような感覚がありました。

実は、旅の途中で日本語が通じる場所に長くいることは、ほとんどありませんでした。いわゆる日本人宿にも泊ったことはありません。

一度だけ、中米で知り合った人が泊まっていた日本人宿に行ったことがあります。でも、そのときに自分にはあまり合わないなと感じることがあって、それ以来、意識して距離を置くようになりました。

今思うと、そのぶん私は、自分で思っていたよりもずっと「日本語が通じる空気」に飢えていたのかもしれません。

グアムで家族や親族と過ごした時間は、純粋に楽しかった。だからこそ、終わったあとの反動も大きかったのだと思います。


別れたあとに気づいたこと

式が終わり、翌日みんなは日本へ帰っていきました。私はその姿を見送って、ひとりでヨーロッパに戻る飛行機を待っていました。

前の日、母が「今日くらいちゃんとしたホテルに泊まりなさい」とお金を渡してくれました。そのことがなぜか頭から離れず、急に泣きそうになりました。

不思議でした。それまで、自分がそんなに寂しかったとは思っていなかったからです。

旅は楽しかったし、このまま続けられると思っていました。孤独を強く感じる瞬間も、そこまで多くはなかった。それなのに、別れの瞬間にだけ、感情が一気にあふれてきました。

誰かが自分のことを気にかけてくれている。そのことが、思っていた以上にしみたのだと思います。

あのとき初めて、自分の状態を少し客観的に見られた気がしました。

こんなに孤独をためていたんだな、と。

旅のしんどさは、つらい最中にそのまま実感するとは限りません。むしろ、安心した瞬間に、それまで見えていなかったところが一気に出てくることがあります。


反動がきつかった

旅の途中に感じていた不安は、初めてのことへの緊張が中心でした。

言葉が通じないかもしれない。
体調を崩したらどうしよう。
移動はうまくいくのか。
治安は大丈夫か。

こういった不安は、旅の中ではある意味で分かりやすいものです。原因がはっきりしているぶん、対処のしようもある。

でも、グアムのあとに出てきたのは、別の種類のしんどさでした。

もう帰ってしまおうかな。
この先、また楽しめるんだろうか。

旅を続ける気力そのものが、ゆっくりと抜けていくような感覚でした。

旅先では、気を張っているぶん、かえって折れずに進めることがあります。でもその反動で、安心できる時間のあとに一気に力が抜けることもある。

私にとって本当にしんどかったのは、旅の不安そのものより、その反動のほうでした。


動けなくなった日

結局、私はヨーロッパへ戻りました。オランダのアムステルダム着でした。

もやもやした気持ちを抱えたまま旅を続けましたが、すぐには元気になれませんでした。ベルギーのブルージュに着いても、気持ちは戻らないままでした。

そこで一度、完全に止まりました。数日間、観光もせず、宿にこもっていました。

ベッドに横になって、日本の動画を見て、天井を眺めて、また時間が過ぎる。
旅に来ているのに何をしているんだろう、と思って、さらに気持ちが沈む。

長旅は自由そうに見えて、期限があります。時間が減っていく感覚が強くなると、何もできない時間そのものが焦り変わっていきます。

行きたかった場所にもう行けないかもしれない。どんどん遅れている気がする。焦ってはいるけど、動く気になれない。

この自分でコントロールできない感じが、いちばん苦しかったです。


散歩だけした

そこで私は、無理に元気になろうとするのをやめました。

観光しなくていい。ちゃんと楽しめなくてもいい。とりあえず外に出る。それだけでいい。

そう決めました。

最初は、宿の近くを少し歩くだけでした。カフェに入って、座って、コーヒーを飲むだけの日もありました。それでも、外の空気に触れているうちに、ほんの少しずつ気力が戻ってきました。

いきなり元通りになるわけではなくても、その少しが次の日につながっていきました。

あのとき必要だったのは、気合いではなく、ごく小さく動くことだったのだと思います。


旅の後半に起きること

旅が半分を過ぎていたことも、大きかった気がします。

前半は、とにかく初めてのことが多い。景色も文化も空気も、全部が刺激になります。

でも後半になると、初めての量は少しずつ減っていきます。私の場合は、過酷な地域から少しずつゆるい地域へ移っていく流れだったので、なおさらそうでした。

中南米でも、アフリカでも、中東でも、ヨーロッパでも、その土地ならではの景色や建物には何度も感動しました。ただ、長く旅をしていると、そういった感動にも慣れてきてしまいます。

その頃から、私はふと「早く日本に帰りたい」と思うことがありました。

旅がつまらなくなったわけではありません。ただ、帰れる場所のことを、一度強く思い出してしまったのだと思います。グアムで過ごした時間が、その感覚をはっきりさせたのかもしれません。


今ならこう考える

今なら、こういう状態になったときに大げさな対処はいらないと思っています。

予定を少し減らして、1日しっかり休む。散歩だけする日があってもいい。すぐに元気になろうとせず、回復に時間がかかることもあると、ただ受け止める。それくらいで十分です。

旅の途中で帰りたくなることは、失敗でも弱さでもありません。安心できる場所を思い出したら、そちらに気持ちが引っぱられるのは自然なことです。

旅は、ずっと前向きでいられるものではありません。
静かに休む時間も、そのまま旅の一部だったと、今は思っています。


まとめ

旅のしんどさは、つらい最中よりも、少し安心したあとに見えてくることがあります。

私自身、別れのあとに急に泣きそうになって、ヨーロッパへ戻ってからもしばらく動けませんでした。それでも、散歩だけするところから少しずつ戻っていきました。

体が疲れるのと同じように、心にも休みが必要なときがあります。そんなときは、無理に元気そうにしなくていい。観光を頑張らなくてもいい。

本当にもう無理だと思ったら、旅を中断して帰ることも立派な選択肢です。そこまで含めて、自分を守る判断だと思っています。


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ボンディオラ


調剤薬局の薬剤師として働きながら、一人旅を中心に80か国ほどを訪れてきました。

このブログでは、旅の楽しさだけでなく、体調、準備、不安、旅先での気持ちの揺れについても、旅する薬剤師の視点からやわらかく書いています。

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