高山病というのは、その名前の影響も大きいと思いますが、登山の時に気を付けるものと見られがちです。しかし、普通の旅行中にも症状がでることがあります。
たとえば、東京から直行便でメキシコシティ(平均標高2240m)まで渡った場合がそうです。
他にも、マチュピチュ観光の拠点となるクスコの標高は約3400m、ボリビアの首都ラパスは約3650m、インド北部のレーは約3500mあります。
限られた日数で旅行しようとすれば、どうしても高山病のリスクを受け入れざるを得ません。
ただ、高山病は悪くなってから対処するよりも、早めに対応するほうが旅行を継続しやすい場合が多いです。
特に高地の町では、バスや車の本数が少なく、症状が出たからといって、すぐに低い町へ移動できるとは限りません。だからこそ、先手、先手で行動を考えることが大事です。
この記事では、登山ではなく、標高の高い街や観光地に行く旅行を前提に、注意が必要なサインと標高を下げるサインを分けてまとめます。
なお、ここでは旅行中にまず気をつけたい「急性高山病」を中心に、わかりやすく「高山病」とまとめて書いています。重い状態についても、後半で触れていきます。
高山病はなぜ起こる?
高山病は、標高が高くなって空気中の酸素が薄くなることで起こります。
高さそのものも関係しますが、実際にはどのくらいのペースで上がったかがかなり大事です。
高さ的には、標高2500mを超えるあたりから起こりやすいとされますが、個人差があるので、もっと低い標高でもつらくなる人はいます。
標高が上がるほど起こりやすくなり、その日に行く最高の地点だけでなく、睡眠時の標高も大事な要素になります。
なりやすい移動のしかた
高山病になりやすいのは、一気に高い場所へ入る移動です。
- 低い場所の空港から、そのまま標高の高い街へ飛ぶ
- 長距離バスや乗り継ぎで、短時間のうちにかなり標高を上げる
- 到着したその日に観光を詰めこむ
- 着いたその日に、さらに高い展望台や遺跡へ行く
- 標高が高い観光スポットで、そのまま泊まる
こうした予定の場合は、体が順応しようとしているところに、さらに負担が重なりかねません。
特に意識したいのが、寝るときの標高です。日中に高い場所へ行くことより、そのまま高い場所に泊まることのほうが、体には影響しやすいことがあります。
難しい場合もありますが、宿泊する場所は少し低い場所がよさそうです。
ガイドライン(学会などの推奨)では、3000mを超える旅では睡眠時の高度の上げ幅を1日500m以下にすること、3〜4日ごとに1日は、そのままの高度で休むことが勧められています。
注意が必要なサイン
高山病でまず気をつけたいのは、高地で頭痛が出ることです。
頭痛に加えて、吐き気、食欲低下、だるさ、めまいのような症状が重なると、高山病の疑いが高まります。
ここで注目する症状は、このあたりです。
- 頭が痛い
普段から頭痛がでやすい人でも、いつもの寝不足や疲れだけでは説明しにくい頭痛は、高地では慎重に見ておきたいです。 - 気持ち悪い、食欲が落ちる
「なんとなく食べたくない」「少し吐き気がある」も、頭痛と一緒なら見逃しにくいサインです。 - 体が重い、だるい
普段より明らかに重たい感じが続くなら注意しておきたいです。 - めまい、少しふらつく
軽いめまいやふらつきでも、頭痛やだるさと重なるなら、今日は無理をしないほうが安心です。
眠りが浅くなる、何度も目が覚めるなどの睡眠障害は、高地ではよくある症状です。以前の診断基準には含まれていましたが、今は信頼性が低いとして除外されています。
それでも、頭痛や気持ち悪さ、だるさが重なるときは、やはり慎重に見ておきたいです。
この段階では、少なくともそれ以上は標高を上げないことが大事です。
到着初日なら予定を軽くする、さらに高い場所へ行くのをやめる、今日はその街で休む。そういう考え方が合います。
高山病の症状は、その標高に着いてすぐではなく、6時間後以降に現れる場合が多いようです。
着いて「まだ大丈夫そう」と思って、もっと高い場所に移動してしまう。そうして気付くと重い高山病になっていた。そんなパターンも考えられます。余裕をもって、ゆっくり行きましょう。
高地での頭痛やだるさは高山病でも起こりますが、発熱があるときは別の見方が必要になることもあります。こちらの記事も参考になります。
標高を下げるサイン
休んで様子を見るのではなく、できるだけ早く標高が低い場所に移動したいサインもあります。
ここで無理をしてしまうと危険な場合もあるので、判断を早めにしたいところです。
- ふらついて、まっすぐ歩きにくい
- 受け答えが変、ぼんやりしている
- 咳が増える、胸が苦しい
- じっとしていても息苦しい
- 横になると息がしづらい
- 痰がからむ咳、ピンク色や血の混じった痰が出る
- 少し動いただけで強く息が上がる
こうした症状は、高山病の重いタイプで見られることがあります。
頭の症状が強くなるタイプ(高所脳浮腫)では、歩きにくさや意識の変化を見逃さないことが大事です。つかまりながらでないと歩けない、質問されたことに対して答え方がおかしい、身の回りのことができないなど。
呼吸の症状が強くなるタイプ(高所肺水腫)では、息苦しさ、咳、胸の症状が目立ちます。咳き込むようになった、周囲の同じ条件の人よりも明らかに疲れやすい、ピンク色の泡のような痰が出るなど。
ここまで来たら、標高を下げるだけでなく、受診することも考えたいです。
高地の街では、悪くなってから交通手段を探すのが難しいこともあります。様子見中に高山病の症状が悪化していくようなら、上記のような症状がなくても、早めに行動した方が安心です。
高地観光で気をつけたいこと
私は、高地観光でいちばん大事なのは、日数に少し余裕を持つことだと思っています。
到着初日は、街歩きや軽い観光くらいにして、いきなり予定を詰めすぎないほうが安心です。
少し症状を感じても動けてしまいますが、そのままさらに高い場所へ足を伸ばすと、悪化してしまうことがあります。急な予定変更にも対応できる日程にしておくと、気持ちにも余裕がでてきます。
もうひとつ意識したいのが、「眠る場所」の標高です。
たとえば標高2500mの街(A)から3500mの観光地(B)を訪れるなら、Aを拠点に日帰りするのが基本です。どうしてもBに泊まりたい場合は、中間地点で一泊はさむと体が順応しやすくなります。
なお、体力があるから大丈夫、という考え方は頼りにしすぎないほうがよさそうです。
体力が高地での活動を助けることはあっても、高山病そのものの予防にはなりません。
また、高地ではアルコールの回りが早くなります。飲むとしても少な目が無難です。
アルコールによる脱水や二日酔いの症状(頭痛・だるさ・めまいなど)が、高山病の症状と見分けづらくなる問題もあります。睡眠の質も下げるし、ほとんど良いことがありません。
薬を使うこともある
高山病の予防でいちばん大事なのは、薬よりも移動するペースの工夫です。
そのうえで、一気に高い場所へ行く予定がある人や、以前に高山病になったことがある人では、予防薬が候補となることがあります。
代表的なのはアセタゾラミドです。
「日程的に調整する余裕がない」「以前かなりつらい思いをした」などの事情があるなら、医師に相談すると処方してもらえる場合があります。その際は、しっかりと使い方の説明を受けておきましょう。
ただ、高山病も含めて「予防」で使われる薬の処方は、ほとんどの場合、自由診療(医療保険の範囲外)となります。対応していないクリニックもあるので、必ず処方してもらえるとは限りません。
また、しびれ感や尿の回数が増えるなど、副作用が気になることもあります。その辺りも含めて相談したいところです。
予防薬を使うか迷うときは、トラベルクリニックのような相談先を知っておくと、旅行前に準備しやすくなります。
まとめ
標高の高い街や観光地では、少しの不調を移動疲れや寝不足と思って無理をしてしまいやすいです。
でも、高地で頭痛が出たなら、まずストップです。それに加えて吐き気、食欲低下、だるさ、めまいが重なるなら、高山病と考えて行動します。高山病は2500mを超えるあたりから起こりやすく、頭痛を中心に見るのが基本です。睡眠障害は高地ではよくある不調ですが、現在は診断項目ではありません。
「注意が必要なサイン」があるときは、それ以上は標高を上げない。さらに悪化していくなら標高を下げる。
ふらつき、意識の変化、安静にしていても息苦しい、咳や胸の症状があるときは、できるだけ早く標高を下げ受診する。
田舎の高地の街では、バスや車の本数が少ないこともあります。症状が出てから「やっぱり低い街へ戻ろう」と思っても、すぐに動けるとは限りません。
なので、予防的な行動や、悪化する手前で対策しておくことが大切です。
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参考文献
- Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Treatment of Acute Altitude Illness: 2024 Update.
- Roach RC, et al. The 2018 Lake Louise Acute Mountain Sickness Score. 2018.
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「高山病」2024年改訂。





